ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤??? Vol.23

名盤の嘘

アルバート・アイラーの「スピリチュアル・ユニティ」などはモダンジャズしか聞かない人でもすんなりと受け入れられる演奏内容であり、同時にアイラーの代表作(名盤)であることに疑いを持つ人が少ないと思うが、コレクターになると入手しにくいアイラーの「Something different!!!!!」を代表作や歴史的名盤としてあげる人が多い。デビュー作の「Something different!!!!!」は確かにアイラー初期の貴重な記録ではあるがESPやDEBUTに残した3枚に比べると内容的にはずいぶんと完成度が低く(名盤どころか一歩間違えると・・・)あまり評価できないレコード。しかし世界に100コピーでしかもバードノーツという自主出版レーベルから出た貴重品は持っているだけで尊敬の目で見られる10年前ならいざ知れず、(未だに高価ではあるが)ここ数年ショップで売り出されるようになると価値観も変わり、本当の価値が分かってくるはずだ。内容的にはディスク・ユニオンで発売したVol.1やVol.2を持っていればオリジナルにこだわる必要もない内容。同様に今でも日本で入手しにくいヨーロッパの貴重盤は幻の名盤と言われてショップで出ると数十万で取引されるレコードも多いが、入手しにくかった幻の貴重盤が復刻されると半分以上は、いや、そのほとんどが「復刻版のこれでいいや」でしかない演奏内容であったことでも幻の意味がどれほどの価値なのか分かるはずだ。〜レコードコレクターで本物の名盤だったら何が何でもオリジナルを所有して聞いてみたくなるもの〜それが名盤の基本的な考え方かもしれない

一部のコレクターやレコード店主、評論家が(日本では)入手し難い幻のレコードを見つけ、雑誌などで幻の(レコード・CD)名盤、隠れ名盤などと讃えるが、最近のヨーロッパ盤をみていると幻の名盤はショップやレコード会社などの商売の販促くらいの意味でしかない

ジャズ批評

ジャズ批評を買ったのは十年ぶりかな?とにかくジャズ関係の雑誌にはほとんど興味がないのだが最新号の「あなたはどっち?CD?LP?」が目に飛び込んできた。中身はというと評論家やレコード店主の自己主張の場でそれぞれの立場からCD、LPを語っているだけである。なぜCDが有利なのかLPが有利なのかという点からもう少し追求してほしく、まともな事を書いているのはオーディオ関係のWebで有名だった楠薫氏ただ一人。ジャズ評論家からみると今でこそオリジナル盤と言っているが昔はソフトは二の次だったことがコレクターの間では有名な話。その昔ジャズ評論家大先生たちはソフトの知識はほとんど無く、案の定、聞き込まれているオリジナル盤は不利などと・・・コレクターが足を棒のように歩き回り何枚も同じレコードを買い換えてほとんど新品と変わらないオリジナル盤を聴いている事実を知らず最近覚えた自分の世界だけで書き込んでいる。悲しいのはあるレコード店主がレコードのノイズがよい?と傷盤を好んでいる女性が多くしかも10人前後もいる!!!ハッキリ言って眉唾ものである。周期的なノイズが出る盤など誰が好むのであろう。このレコード店に傷盤が多い言い訳のように読み取れるのは僕だけではないだろう。もう少しオーディオ的な立場から書く人がいても良いものだが、そこはジャズ批評。でも今回の表紙は日本版ペラジャケ時のトップランクのカバーが使われていてちょっとアナログっぽくカワイイ

FALLING IN LOVE WITH JAZZ / SONNY ROLLINS

CDでもLPでも同じだが人気のあるものはすぐに市場からなくなってしまう。ヨーロッパ盤などは入荷数が少なく人気盤でなくても無くなってしまうことが多いが、米国盤しかも大手のレコードがすぐに無くなろうとは思いもしなかった。新譜としてユニオンに入荷して内容が良かったので予備用に2枚目を購入しようとしたら全然入荷の様子がない。米国大手のファンタジー盤だからすぐに再入荷するだろうと思っていたら・・・人気があったらしく(再入荷してもすぐに無くなってしまうらしい)数年後ようやく中古で2枚目をゲットした。その後やはり大量に輸入されたせいかちょくちょくえさ箱で見かけるようになる。内容が良くても大量に出回まわっているため今でも千円前後とお手頃価格。
しかし内容は良いが素直におすすめできないレコードでもある。このレコード80年後半の録音で面白くも何ともないごく普通の録音。こじんまりと纏まっているためにロリンズの豪快さも薄れ、ただ綺麗な音でまとまっている感じだ。当時のファンタジーの新譜は皆このような録音だが、同時期OJCという5、60年代の名盤を素晴らしい音質で提供していた同社だけにこの「FALLING IN LOVE WITH JAZZ 」の録音は何とももったいない気がしてならない。OJC制作担当者が録音に関わっていたら間違いなく名盤の一枚と言われていたに違いない。※Milestone レーベルだが配給元はFantasy

80年後半デジタル録音が主流になると同じような録音が多くなる。録音機材が発達したため、実際の音に近づいたせいだと思う。しかし反面レコード芸術といわれる録音エンジニアの感性が薄れ、これ以降の録音はレコード・CDとともに音質的には可もなく不可のなくの録音になっていき、バンゲルダーのようなデフォルメされた芸術的な音が聞けないのは残念である。ビートルズのSGP以降レコードでないと絶対に表現できない世界があり、またブルーノートをはじめとする60年当時の音質は絶対に現実ではあり得ないリアリティさがある。ステレオ再生が仮想空間芸術ならば、録音芸術という仮想世界をもう少し録音エンジニアが主張(表現)しても良いものだと思うが如何なものであろう?

BOHEMIA AFTER DARK / KENNY CLARKE

Savoyには一つ困ったことがある。ジャケットがコロコロ変わるレコードが意外に多いのだ。Savoy初期のジャケットなどは短期間でモノクロジャケットからカラージャケットになるものがあり、なかなかオリジナルジャケットに出会えないものもある。たとえば人気盤「BOHEMIA AFTER DARK」は演奏が好きでオリジナルを長い間探していたがなかなか出会えずにいた。入手したのはごく最近だからこちらも何年かかったことか(汗)このレコード1stが上写真で3rdが下写真であり、3rdまではオリジナル赤レーベルの溝あり(の、いわゆるオリジナル)盤である。2ndジャケットは入手していないが同日に録音された続編のMG-12018の「PRESENTING C. ADDERLEY」のジャケットに似ていてオリジナルジャケットよりもカッコイイ。2ndジャケットの変更理由は?と考えると1番違いの続編だとわかりやすいように変えたようにも思えるが、カフェ・ボヘミアからのクレームであろうか?謎である。60年初期モノクロジャケットが時代遅れとなりカラー(天然色)ジャケットじゃないと売れなくなったために初期モノクロジャケットが替わったと推測されるが、困るのは3rdジャケット。カラージャケットに切り替えるもこのセンスのなさは・・・なにか意味があるのだろうか。このほか有名なレコードとしてはミルト・ジャクソンの「OPUS DE JAZZ」がある。こちらも3回ほどジャケットが替わっている

Savoyはすり減りながらもオリジナルスタンパーを使い続けているために2nd、3rdでもオリジナルスタンパーが多いが、さすがに輪郭が崩れてきて最初のみずみずしさは消える。以前は格安で日本盤よりもSavoy再発盤が安価で入手しやすかったのでお勧めできたが、最近では2nd、3rdでも数千円と値段が付いているため、果たしてオリジナルスタンパーだからといってお勧めして良いものかどうか・・・

1st と3rd ジャケット。人気盤だけに是非2ndジャケットも手に入れたい
2ndは1番違いのMG-12018に酷似。Savoyでも屈指の出来の良さ。う〜ん、持ってないのが残念
OPUS DE JAZZ も2ndは文字が黄色になり3rdでは日本盤でよく見るカラージャケットになる
PAUL BLEY ~ IN HAARLEM / BLOOD

ビル・エバンス以降感じなかった「知的なもの」を感じた最初のレコードで僕にポール・ブレイを意識させ、(もちろん以前からモダンをやっていたポール・ブレイは知っていたが)その衝撃的な出会いは僕がヨーロッパフリーを集めるきっかけにもなった「IN HAARLEM・BLOOD」2枚のレコードはその録音はある種の音を僕に連想させる・・・

緊張感のある音質を想像させてしまうほど有名になってしまった初期レビンソン・アンプの開発者マーク・レビンソン氏は優秀なエンジニアでもあったが、皆さんご存じの通りベーシストでもあった。66年にポール・ブレイと録音した「IN HAARLEM・BLOOD」は(レビンソン・アンプにも劣らない音質で)その張りつめた演奏に、ひしひしと伝わる緊張感があり、ヨーロッパ独特の繊細な録音が緊張感をさらに強調している。このヨーロッパ中欧での録音がその後のレビンソン・アンプの開発に何かしらの影響を与えたのではないだろうかと「IN HAARLEM・BLOOD」を聞くたびに感じる。その後ECMでもポール・ブレイとの録音を残しているが、彼が求めていた音質の原点は神経質すぎるほどの繊細な中欧録音にあり、アメリカに戻った彼がアメリカ独特の録音に不満を持ちLNP-1を開発するに至ったのではないだろうか?

もしもポール・ブレイに出会うレコードが1年前の録音(65年)である「TOUCHING」だったらフリージャズにそれほどのめり込んだかどうだか分からないが「IN HAARLEM・BLOOD」2枚の衝撃はそれほど凄かった。
BARNEY WILEN 2

レコード整理をしていたらバルネの日本版が出てきた。いつ買ったのだろう?全く記憶にない。聞くつもりで買ったらしく丁寧にビニールで覆っているしジャケットの中には帯まであった。バルネは未発表も入っているCDで聞くことが多かったから、すっかりレコードを買ったことを忘れていたのかな?
さて、この日本盤はオリジナルと曲順が違う。いや正確に言うとオリジナルのB面がA面になっている。所有しているバルネは1800円の廉価版レコードだが僕が制作担当者なら同じように曲順を変えただろう。オリジナルを尊重するコレクターだったら嫌がるかもしれないが音楽ファンにジャズの面白さを伝えるにはやはりA面の一発目は「JORDU」しかないと思う。この制作担当者は心底ジャズ好きなのかもしれない。オリジナルとの音質比較などジャズの楽しさを伝える制作意欲の前には何の意味もなさない良い例で、今回はレコード制作担当者に敬意を表しオリジナル盤と日本盤の音質比較なんて野暮なことはやらない

B級

「RODNEY RETURNS / RED RODNEY」昔から何故か「シグナル」の陰に隠れてあまり評判にもならないレコード。しかし僕的には「シグナル」に劣らない秀作と考えているのでとても不思議に感じる。面白いのは廃盤店でもこの種の(B級?)レコードは有名盤と違い定価が無く、状態の良いオリジナル盤でも4000円くらいから見ることが多い。この種のレコードがお店に入ってくるとレコード店主もいくらだったら売れるのだろう?とまず考え、最終的には店主の値付けに好き嫌いがはっきりと出るのである。また名盤みたいに高い値段では売れないので数千円と値付けするお店もあれば、廃盤だったら何でも1万円以上付ける強気のお店もある。オークションと違いレコードコレクターはこのような定価のないB級作品を安く入手するために足を棒のようにしてレコード屋をはしごして日夜活躍しているのある。もう少し有名なレコード「Chet Baker And Crew」なども数年前になるが新宿ユニオンで2500〜4000円で何度もえさ箱で見たが半年後の廃盤セールでは盤質状態は変わらないのに何故か20000円を超える値段になっていたこともあった。店頭ではこのようなことが日常茶飯事である。最近では有名人気盤が安く出ることはほとんど無くなったがこのようなB級作品はまだまだ足で稼げることが多く、いまだに僕がレコードコレクターを引退できない要因ともなっている。

最近アホみたいに高い廃盤店があるがこれからオリジナル盤を集めたい人は相場というのをよく調べることをお勧めする。絶対にレコード店に相場を聞いてはいけない。出来ればレコードコレクターを捕まえて聞くようにすべきだ。B級廃盤をA級価格で買わないためにも知識を付けてから・・・

初期ステレオレコード

ジャズに於ける初期ステレオ録音の評判の悪さは今に始まったことではないが、最近これらの録音にパターンがあることに気づいた。一つは多量のエコーをかけたような疑似ステレオ的な空間。非常に聞きづらい音質で、ちょうど風呂場でレコードを聞いているみたいで音像がはるか遠くにある録音。もう一つは左右に楽器を配置して真ん中はポッカリ穴が開いている録音。これらのレコードは音楽鑑賞以前の問題で聞くに値しないと長らく思っていたが、あるきっかけでヒョッとすると僕の考えは間違っていたのかもしれないと思い始めた・・・。考えてみると5、60年代にジャズを聴く層は黒人で、また貧しい人々がほとんどだったはずだ。オモチャみたいな安物のステレオ装置でステレオ空間を表現するためには狭い空間をデフォルメして大きく見せかける必要があったのではないだろうか・・・と。

4、50年経った現在、誰でも素晴らしい音質を簡単に手に入れることが出来る。しかし古いラジカセで不思議なステレオ空間を感じた・・・当時の環境を考えずに初期ステレオレコードを失敗作と決めつけるのは少し軽薄かもしれない

↑モノラル盤も録音が良くないがステレオになるとさらに風呂場的音質となる。下手をすると疑似ステかも
↑マスタリングだけはバンゲルダーだがこのステレオ録音も良くない。初期のステレオ刻印は「RVG STEREO」
JAZZ ADVANCE / CECIL TAYLOR

20年くらい前、幻の名盤として当時コレクターの間でも入手が困難な1枚であった「JAZZ ADVANCE」。幻のレーベル・トランジションの代表作としても有名でフリージャズに近い内容となっているにもかかわらず大変に高価。僕もブックレットが付いていないので格安であったこのレコードを(それでも数万円で)入手して喜んだ記憶があるが、最近新宿ユニオンのセールでなんと3千数百円 !! もちろんブックレットは付いていないがキズらしいキズも無い。多少ジャケットの上部が裂けているがコレクターを始めたばっかりの時に苦労して入手しただけに理解が出来ない。おそるおそる顔なじみの店員に聞くと「最近セシル・テイラーだけでなく、フリーそのものが全然売れない」とのことで「JAZZ ADVANCE」もこの値段で売れるかどうか?と・・・なにやら、うれしいやら悲しいやら、複雑な感情におそわれた。もう十年以上聞いていないなぁ〜と隠れ家で早速針をおろすと(あんなに斬新に聞こえたレコードが今聞くと)な〜んだモダンじゃないか!というほどデビュー当時のセシル・テイラーは聞きやすい。しかし残念なことにトランジションの独特の軽く堅い盤質のためか?多少ハイ上がり的で音質的には不満が残る。
ある雑誌で有名量販店がこれから上がりそうな(主に7〜80年代の)レーベルを紹介していたが、最終的には自分の聞く価値で適価かどうか判断すべきもの。ジャズだけではなく他の民族音楽にも値段が乱高下するレコードが多くあり、投機的な意味でのレコード蒐集はあまり意味がないように思える。

上記のアルバムのように乱高下するレコードは多く「TAKES CHARGE / C. ADDERLEY」も今まで店頭で十数枚見ているが3000〜20000円超と(僕は好きだけど・・・)人気があるのか無いのか?しかも盤質は高いからと言って必ずしも良くはない。ビンテージ盤の不思議な世界の一例である
Knud Jorgensen Jazz Trio 2

JAZZ関係の雑誌のレコード評はCD売り上げが上がるように評価されていて、評価を信じ購入して失敗した経験のある人が多いはずで、その点、個人のHPのお勧めは好き嫌いはあれど、かなりの確率で失敗することが少なくなる。しかし【好み】の問題はどうしようもなく、いくら説明しても納得のいかない場合も多く、オーディオで言えばレビンソンが好きかマッキンが好きか?ハイエンドが好きかビンテージが好きか?くらいの隔たりがある。僕も【好み】その点だけは注意して音質に絞り書いているつもりだが、(自分の好みを人に押しつけるのは良くないと思いつつも)気に入ったレコードが出るとつい書き込んでしまう。もしも好みが合わなければ「騙された」と言うことになる。昨年復刻レコード「Knud Jorgensen Jazz Trio」を紹介したのもちょっと軽薄だったかな?と思っている。新品レコードで高額でもないのであまり気を遣わずに紹介してしまったが、優秀録音盤でもなく好みが合わずに駄作と感じた人がいれば素直に謝ります。ゴメンナサイ。

さて、紹介した「Knud Jorgensen Jazz Trio」のオリジナル盤は?・・・どっかにあったはずだ!と探し続けてようやく発見!! コレクターなら一度は遭遇しているかとも思うが、何とも面白みのないジャケットで以前はよく2〜3000円くらいでえさ箱にあったが最近はめっきり出てこなくなった。最初から復刻版のようなジャケットだったらもう少し話題になり売れたのかもしれないが・・・このレコード、オリジナルと復刻盤ともに同じスタンパーが使用されている。したがって同じ音質のはずであるが、84年のスウェーデン・プレスのオリジナルの方がほんの少し可愛らしい音質であり、復刻の2001年ドイツ・プレスは、ずしりと重い重量盤で、オリジナルに比べて少しハイファイな感じ。これがCDになるともっと緻密な音になるから面白い。どちらかといえばオーディオ的にはCDの音質が一番良いかもしれない。

・・・・・ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤??? Vol.24に続く・・・・・