ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤??? Vol.19

ステレオ・レコード開眼(1)Hp's List

僕が初期ステレオレコードを意識したのは10数年前にコレクターの間で話題に上ったクラシックの初期ステレオ盤を聴いてからのことで、ジャズを聞いていて経験的に初期ステレオ録音はとんでもなく悪い!と思っていた僕に衝撃を与えた。50年後半にこんなに素晴らしいステレオ録音があるとは全く知らず、聴かせて頂いたクラシック・コレクターに感謝した。それは先述した米オーディオ雑誌「Hp's List」の中の1枚であったが、この驚くようなステレオ録音はジャズファンでも一度経験しても損はなく、オーディオファンだったらなおさらである。しかしクラシックファンのレコード離れはすさまじく、最近クラシックにおける一時のブーム?は去り中古レコード屋(ユニオン系列店)ではこれらの「オリジナル」が驚くほど安く入手できる。しかも2ndとなると極端に安く1000円台で手にはいるが音質的には激しくは変わらない。クラシックでこのような録音があるというのならジャズでも初期ステレオ録音の素晴らしいレコードが必ずあるはずだ。しかし日本のジャズ・コレクターはステレオ盤が嫌いで鼻っから相手にしないために情報がほとんど無い。幸い「Hp's List」に少しジャズレコードが載っていて優秀なステレオ録音が少なからずあると言うことが分かったが、日本ではそのレコードでさえ評判にもならならないので僕自身で確かめなくてはならずに、1枚1枚機会があるたびに購入し聞き比べを行っている。一つのレコードをステレオ、モノラルと2枚づつそれも廃盤を・・・資金的に厳しいが今なお購入し続けている。ほんの数年前まではステレオ盤は人気が無く安い値段で手に入れられたのが幸いしたが、今ではモノラルと殆ど変わらない値段がついているのが残念だ。ジャズのレコードは初期ステレオ盤は「良い」「悪い」しかなく「中間」がない。その点クラシックは「悪い」レコードを探すのが難しいくらいうらやましい世界である。ジャズ初期ステレオ録音は「悪い」レコードが多いのも事実だが「良い」レコードはモノラルと比べものにならないくらいオーディオ的快感を得られる

クラシックではないが「Hp's List」のリストの中でも特に優秀とされているレコードの1枚。ラベルが2種類あるらしいが上のラベルがオリジナルか分からない 「Hp's List」以外にもクラシックには優秀な音質のレコードが数多く、むしろ米RCA、マーキュリー、英デッカなど普通の録音を探す方が困難だ

ステレオ・レコード開眼(2)FREE WHEELING / TED BROWN

ジャズの初期ステレオ盤はいったい幾らくらいで売っていたのだろうか?
ヴァンガード・レコードの人気盤であるFREE WHEELING。どうもペッパーが絡むと日本では異常に人気が上がるようでオリジナルは入手が難しい。もう一人の人気者ウォーン・マーシュもいてウェスト・コーストの素晴らしい演奏を聴かせてくれる名盤だ。
さて、このレコード入手してからすでに10年以上経つが最近棚から取り出しジャケットを眺めていたらジャケットの中からポロッとヴァンガードのオーダー・フォーム・リストが出てきた。58年のリストでクラシック・ポピュラー・ジャズなど多く記載されているが値段は12インチが$4.98、10インチ$3.95、demo(サンプル)レコードが$1.98と書いてある。驚くのはステレオ盤の値段で$11.90〜とモノ盤に比べ倍高い。57年にステレオ盤か発売されたと記憶しているから発売直後の値段もおおよそこのくらいだろう。ステレオ発売時にはまだステレオオーディオが普及しておらずしばらくの間、高めの値段が続いたのではないだろうか?このようなチラシは意外と多くブルーノートやその他のレコードでもジャケの中に紛れ込んでいることが多い(さすが通販王国アメリカである)。余談だがプライスを見て新品でこの値段で買えたらと夢想するのはコレクターだけかもしれない。
ステレオ初期においてこのような高価な値段で売っていたものに録音の悪いものを使ったのだろうか?各社腕を競いながらステレオという新しいメディアに挑戦してクラシックでは多くの素晴らしい作品を残したものと考える。しかし何故?日本においてステレオレコードの音質が悪いと悪評がたったのだろうか?

三つ折りになっていて、開くと結構大きいレコード・リストである。僕もまともにジャケットの中を覗いたことはないが全て調べたら何かまた出てくるかもしれない。そういえばなんだか分からない子供の写真も出てきた記憶があったなぁ

ステレオ・レコード開眼(3)VeeJay ・Go

日本ではジャズレコード初期ステレオ盤というと「うげぇ〜」となる人が多い。なぜに日本のコレクターはステレオ盤を嫌うのか? 僕が考えるに、ジャズレコードの有名録音エンジニアであるバンゲルダーがステレオ録音があまり得意ではなかったためと思われる。たしかに初期のバンゲルダーのステレオ録音で名録音盤は皆無に等しい。バンゲルダーのステレオ録音が悪いのではなく彼自身のモノラル録音技術が凄まじかったのだ。そして60年中期の疑似ステレオ盤が拍車をかけている。ステレオレコードが一般化されると当然モノラル盤が売れなくなる。そうなると古い録音も売るために電気的に広がりを持たした「疑似ステレオ」盤を発売した。これが非常に聴きづらい音で最低の音質、さらに後に書くがお蔵入りした失敗ステレオ録音を発売してますますジャズ初期ステレオ盤の音質が悪いとの評価ができあがったものと考えられる。
認識は違うが最初期ステレオ盤を正規発売したジャズレコードにはそれほどひどい録音がない。最初期ステレオ盤は各社とも値段の設定も高めで制作の気合いが違うようだ。それはジャケット、レーベルの装飾でも差があることで分かる。また録音にも気を遣い失敗したステレオ録音はブルーノートのように数多くお蔵入りとなったようだ。(当然お蔵入りになりそうなたぶん、ライオンが納得しなかった音質で版権がリバティに移ったとき多数のステレオ音源を発売している)むしろジャズでのステレオ録音の評判が悪くなったのは60年中期にステレオ盤が普及してからのことと思う

ジャケットの裏面にもサウンドデータが細かく記載されていることや、ステレオ・ラベルもゴールドと豪華に作ってあり、ステレオに対する当時のレコード会社の意気込みを伺える。このVee-Jayのステレオ盤も優秀録音とまではいかないが、ステレオ空間の処理など、なかなかの音質でモノラルとはまた違う雰囲気で楽しめる

ステレオ・レコード開眼(4)絶妙なステレオ感・monk's music

本当にジャズレコードでステレオ最初期の録音には名録音がないのか?やはり探し始めはどうしても3大レーベルとなるが先述したとおりバンゲルダーが関わっているブルーノート、プレスティッジではモノラル盤と比べ凄いと思われるステレオ盤が見つからない。となれば残されたリバーサイドということになる。もともとリバーサイドの音質が好きで集めていたのと、ほんの数年前までリバーサイドのステレオレコードはゴミみたいな値段で、えさ箱にあったのでそれほど負担がかからずに入手できた。おかげさまでステレオ盤とモノラル盤あわせてリバーサイドは300枚ちかくあるかもしれない。リバーサイドのステレオ感は独特でモノラルの音質を継承しながら空間を作り上げていて実に絶妙であり、聴いていてオーディオ的に楽しい。しかしリバーサイドの難しいところでスタンパーが変わると、とたんに別物の音質になり経験上、 再発スタンパーのステレオレコードはどんなに安くても手を出さないことだ。
リバーサイドのステレオ感の絶妙さは空間をうまく使っていることだ。たとえばコンテンポラリーのピアノトリオのように空間が大きく分かれスピーカーの配置によっては不自然な空間に(聞きづらく)なるようなことはなく、使える空間の隙間は余すところなく使っているという感じで非常に自然に聞こえる。もちろん失敗した録音も多少あるのだが傑作も多い

モンクの代表作の一つである「monk's music」の初期のステレオジャケットはモノラルと同じでブルーノートと同様に金色のステレオシールが貼られていたものも多い。しかし「monk's music」モノラルはいわゆる“巻きジャケット”なのにステレオは“貼りジャケット”しか見たことがない
ブルーノートと違うのは裏ジャケットでステレオ録音の説明を載せているところで当時ステレオ発売に力を入れていたのかがわかる。「monk's music」はリバーサイドの中でも屈指のステレオ録音でありこの録音を聞いた後にはモノラル録音がかすんでしまうほどの凄さがある。

「monk's music」のオリジナルラベルは後期の白ラベル(前期は草色テープに白)と黒ラベル。両方とも初期大ラベル。リバーサイドのステレオ盤はセカンドスタンパーになると音質がとたんに悪くなる場合も多いので注意が必要だ

雑談・レコードコレクターの懲りない面々

レコードコレクターは、どうも人とは違う貴重盤?を求めることが多く、深みにはまると人の持っていないレコードをひたすら追い求めるらしく、特に日本では手に入りにくいヨーロッパのマイナーなレコードなどを手に入れて喜ぶ習性があるようだ。悲しいかなその殆どは仲間に自慢するためだけが多く、珍しければ演奏内容は二の次、そこそこの演奏であればたちまち名盤などと羨ましがられる??
しかし冷静になって考えてほしい。幻と呼ばれる激レア盤が次々と復刻されているが果たして?名盤といわれて親しまれているブルーノートの一連の作品のように何十年間も飽きることなく聞ける演奏内容だろうか?と考えてしまう。僕もかつて毎週のようにコレクターの会合に出かけたが自慢話しかしないコレクターに飽き飽きしてこの十年くらいはそのような会合に出たことがない。彼らにとっては演奏とか音質とかは建前で、珍盤を所有して優越感に浸りたく会合に意気揚々と出席しているだけのように思える。

さて何もヨーロッパの激レア盤だけに限らず名盤と言われているレコードにも違うラベルが存在したりミゾがあったりで人よりも少しでも違うものを求める人も多いが基本的にスタンパーさえ同じであればラベル違いであれ、ミゾがあろうが無かろうが音質的にはそれほど変化しないので、ジャズをよい音で聴くために先輩コレクターに惑わされることなく賢くレコードを集めて欲しいと願っている(と偉そうに言えないけれど・・・)

さて、「Thelonious Monk with John Coltrane」のステレオ盤にはミゾがあるのに何故?モノラル盤はミゾありが無いのだろう?と昔コレクターの間で噂になったが、ミゾあり盤が発見されるとたちまち所有している盤がイヤになるのはコレクター独特の不思議な現象なのであるが・・・つまりコレクターにとっては音なんかは全然関係ないことになる(笑

CHI CONGO・ART ENSEMBLE OF CHICAGO

フリージャズの興味のない人は分からないだろうが、フリージャズにも名盤というのがあり特にマイナーなレコード会社(自主出版も含む)に名盤が多い。手作りジャケットも多く何がオリジナルか分からないレコードも存在する。昔から『在る無い』などと噂されているレコードの一つにアート・アンサンブル・オブ・シカゴの「CHI CONGO」がありフリーを意識してから今までオリジナルとされるカーソン盤に出会ったことがない。フランス録音であるこの盤はフランスのマイナーレーベルのカーソンから発売されたと同時期発売された日本盤解説書に明記されていた記憶があり必死になって探していたがとうとう出会うことはなかった。しかし面白いことにフランス・デッカ盤で同時期に発売されていて何らかの理由で発売直前に版権が移ったのではないか?と想像する。最近ヤフオクでこのカーソン盤のテストプレス盤が載ったが競り負け本物かどうか?分からないでいる

フリージャズの世界はモダンジャズなどのような定価というものが無く、このフランス・デッカ盤も(今まで何回も遭遇しているが)数千円〜数万円とお店の考え方で値段が大幅に違う。音質的に言えばユニオンなどで出れば数百円のアメリカ・ポーラ(pola)盤が僕的には一番気に入っている。

雑談・このホームページの存在理由?

このHPを通してCDを否定しているわけでもなく再発盤レコードを否定しているわけでもない。オーディオ再生に於いて、たとえCD再生のみのオーディオマニアでも「オリジナル」の音源を知っていれば、その後のCDなどでの再生、オーディオ調整に大変役立つはず。ジャズオーディオ再生で難しいのは古い録音が多く色々な音があることだ。(たとえばマイルスやロリンズなど)それぞれのエンジニアの解釈でこういう音が本物だ!と色々な音質のCDやレコードが再販されるが、初版のオリジナル音源を知っていると再販の何が足りないのか?分かってくるようになりCD再生でも足りない部分を補って、うまく調整出来るはずである

いちばん困るのはアナログはノイズがあるとかボケボケの音だとかアナログを真剣に聞こうとしないオーディオマニアでLexington、47west時代のバンゲルダーの本当の音質をただのドンシャリに解釈している人が多いと感じる。オリジナルに詰め込まれている(熱く冷たい)スタジオの雰囲気も知らずにバンゲルダーを語れない。と言えば少しはアナログを見直してくれるだろうか?
オリジナル盤の知識もなく古い輸入レコードがオリジナル盤と思っている人も多く、所有しているCDやレコードと比較するのは間違っているし勿体ないとおもう。

オリジナルと言えば最近ヤフオクで何が何でもオリジナルとして出ているがネットのおかげでオリジナル盤に関しての情報が広まったせいか騙される購入者が少なくなったようでホッとしている。老舗のジャズ廃盤店も閉店するくらい廃盤は売れないのに値段だけが下がらない。じっさい現在は高価な値段で手に入れても流通価値はほとんど無いと見てよい。ただ自慢するだけのためにオリジナル盤を購入するならばとうてい続く趣味ではないので止めた方がよいと思う。
本当に良い音楽を良い音質で聞きたい価値観だけで購入してほしいものである

LAST DATE / ERIC DOLPHY

US版ラスト・デイト。二十数年ほど前、日本盤の「ラスト・デイト」はライムライト盤ジャケットが使用されていてオリジナル盤に目覚めたときに真っ先に購入した1枚。数年後にオランダ・フォンタナ盤がオリジナルだと知ったが高価で当時、僕の小遣いではとても買うことは出来なかった。
購入当時はモノラル信仰が強くステレオ盤は人気盤でもゴミみたいな値段でえさ箱にあることが多くモノラルにあこがれつつも(いつかモノラル盤をと)やすいステレオ盤を購入することが多かった。しかし、このステレオレコードは非常に音質が良く、凄まじいくらいスタジオの雰囲気がステレオ空間の中に詰め込まれている。当然オリジナル録音も良いのだろうが、当時のライムライトの親会社マーキュリーのステレオ・レコードの製作技術は他のレコード会社とは比較にならないほど研究されていて、このラスト・デイトもUS・マーキュリーならではの音質になっていると思う。この音質から想像するとオリジナルはもっと凄いと思い必死になって探したが手に入るものはモノラル盤・・・なかなかステレオ盤が入手できず今日に至っている。US盤ラスト・デイトは日本にかなり多く輸入されているために価格も安くジャケットも素晴らしい出来で、是非ライムライト・ステレオ盤を手に入れてスタジオの雰囲気を楽しんで欲しいお奨めのレコード。(なお、所有している盤は溝がなくUS版オリジナルでないことも後から知った苦い経験の1枚でもある)

ERIC DOLPHY IN EUROPE

ホームページは立ち上げるのは簡単だが維持するのが大変に難しい。更新日を決めていたときには仕事が手につかないほど「何を書こうか?」悩んでいて、僕が皆さんに伝えたかったことをほぼ書き終えた頃を見計らって止めようと思っていた。しかし、このような特殊なホームページ?も後に続くものが出てこない(知らないだけかもしれませんが)ので、更新日を決めずにマイペースであと少し頑張ろうと思っています。これからは暇つぶし程度に見て頂ければ、僕も気が楽になります

さて、前回に続きドルフィーですが、実は僕がレコード・コレクターとして一番ほしかったのが「ERIC DOLPHY IN EUROPE 」で、今でももっとも大事にしているレコードの1枚。内容自体はプレスティッジの「ドルフィー・イン・ヨーロッパ Vol.1」で超有名盤。音質の違いはバンゲルダー・カッティングの迫力のあるジャズ的なUS盤の音に対して、デビュー盤はヨーロッパ独特のしなやかで繊細な音。音質的に、どちらも芸術性が高く、甲乙つけがたい。おそらく(音質的には)値段の差は感じないだろう
しかしジャケットに関しては圧倒的にデビュー盤がよい。当時コレクター宅で見たデビューは、ドルフィーの背景にある町並みが見慣れているアメリカの写真とは違うため、よけい新鮮に感じた。最近では、たまに市場に出てくるようだが、当時は高価という以前に全く見ることが無かったため入手するのに何年もかかってしまった。5、60年代のジャズレコードは音質だけではなく、ジャケット・デザインや写真(鮮度)などにも魅力があるものが多く、(モンク・イン・トーキョーと同様に)是非オリジナル・ジャケットで復刻してほしいジャケットの1枚。

雑談・最近の収穫など

オリジナル盤以外のレコードの魅力と言えば最初に思い浮かぶのが別ジャケットの魅力であろう。とくにヨーロッパ盤の中のジャケットの写真は集める価値のあるものが多い。コレクターの中にはアメリカ名盤のヨーロッパの別ジャケットを専門に集めている人もいるくらいで、下の「MAX ROACH QUARTET」は1200円で買ったばかりだがカッッコイイと思いませんか?

もう一点、これも最近仕入れたもので上と同じレコード屋で1000円、じつは先日8000円以上でヤフオクで同じレコードを取ったばかりでそれ以上の美品。こんな事は昔は日常茶飯事で廃盤専門店で仕入れたばかりのレコードが数分の一の値段でユニオンのえさ箱に入っていることなど珍しくはなかったが・・・最近では珍しいかもしれない・・・やはり今でもレコード屋を回らなければ棒にも当たらないのかもしれない

さて、今回からフラッシュを使用してジャケットやレコード・ラベルを撮るようにした。ホワイトバランスを取ったり色調整を殆どしないまま載せられるようになったが、写りはどうだろう?

・・・・・ちょっとめずらしい?じゃず・レコード盤??? Vol.20に続く・・・・・